皆きっと離れて行くんだね。
 だけどその道は必ずしも離れて行くばかりじゃなくて、

 きっといつか また交わる日も 来る だから。


【さよならの言葉と道と】


「ほなな、先生」
 そう言ってトウジは僕に背を向ける。
 ほなな、と言葉を紡ぐトウジの表情は満面の笑顔で何だか僕は無償に悲しくなった。
 だけど、笑顔を造るのが得意な僕はいつもの冴えない笑顔でまたね、と手を振った。


「それじゃあね、シンジ君」
 そう言ってカヲル君は少し寂しそうに微笑んで僕のおでこに唇を落とした。
 カヲル君に口付けられたおでこは何だかじんじんと熱くて、僕は少し泣きそうになったけどやっぱり笑顔で手を振った。


「…それじゃあ」
 そう呟いて綾波は僕の目をじっと見た。
 綾波の表情はいつもと変わらない静かなものなのに、何故か綾波を纏う空気は仄かに泣いてる気がして僕は少し首を傾げた。
 けれど綾波は何も素知らぬフリをするように、何かを振り切るようにそのまま僕に背を向けた。
「あ…」
 だから僕は少し大きめの声で離れていく背中にまたねと言った。


「じゃあねっ」
 そう言いながらアスカは僕の背中をばしんと叩いた。
 強気な声を張り上げながらもその目元は赤く潤んでいて僕は思わず涙を落としてしまいそうだった。
「あたしが居なくても、泣くんじゃないわよ!」
「…アスカの方が泣きそうな顔してるよ」
 思わず言ってしまった言葉はアスカのプライドを傷付けたらしくアスカはかぁ、と顔を赤らめてふんっ、と僕にそのまま背を向けてしまった。
「…またね」
 さっきとは違って、僕は離れて行く背中を見ながら誰にも聞こえないように小さく呟いた。


「またね、か…」
 寂しいな。
 そう思って顔を上げたら皆がそれぞれ進んだ道の先から僕を振り返っていた。
「え…」
 僕は少し戸惑いながら皆を見つめて、皆は僕にもう一度手を振った。


「先生!そない景気の悪い顔して歩いて行ったら道に迷うでえ!」
 そう叫んでトウジは今度こそ僕に背を向け歩いて行って、もうその背中は見えなくなった。
 トウジの道は、清清しいほど真っ直ぐ伸びた一本道だ。


「シンジ君、僕は君に出会えて本当に良かった」
 そう笑ってカヲル君も僕に背を向けた。その背中もすぐに見えなくなってしまう。
 カヲル君の道は、今にも消えてしまいそうな薄く、不安定な道。
 …一人で歩くの、怖くないのかな。


「碇くん…頑張って」
 そう呟いて綾波も僕に背を向ける。その背中は今まで見た綾波の中で一番強そうだった。
 綾波の道は、綾波の意思に沿うように形を変えられるような水のような道。


「馬鹿シンジ!何て顔してんのよ!」
 アスカは怒鳴りながらそこで一息吸って、
「今違う道から歩き始めたって、あたし達はまた会えるんだからね!道はいつかまた交わるんだから!」
 ドキッとした。
 何でもう会えないなんて思い込んでたんだろう。僕は嬉しくなって涙を一筋零しながら、だけど笑ってうん、と応えた。
 それを見て満足そうに体を翻したアスカの背中も、きっと多分笑ってた。
 アスカの道は少し複雑に曲がったりしていて、でも確かに一つの場所を目指した脆くも芯の強い道。


「僕も、頑張らなくちゃ」
 歩いて行こう、僕の道を。
 きっと、皆にもまた会える。
 その為に、歩いて行こう。
僕達は、僕達の道を。